人権とは、私たちが幸せに生きるための権利で、人種や民族、性別を超えて誰にでも認められる基本的な権利であり、一人ひとりに備わったものです。しかし現状では、家庭や地域、学校、職場等、日常生活のさまざまな場面で、差別に悩み人権を侵害されている人がいます。
人は誰でも、人として尊重され、人間らしく生きる権利を持っています。一人ひとりが人に対する思いやりを持ち、お互いに人間らしい生き方を尊重しましょう。
野木町では、「野木町人権施策推進基本計画」において、次の16課題を掲げています。
- 女性
- 子ども
- 高齢者
- 障がい者
- 同和問題
- インターネットによる人権侵害
- 多様な性のあり方
- 感染症患者等
- 外国人
- 犯罪被害者とその家族
- 刑を終えて出所した人
- アイヌの人々
- ホームレス
- 北朝鮮当局による拉致問題
- 人身取引
- 大規模災害の被災者・避難者
女性
「男は仕事、女は家庭」、「男性・女性はこうあるべき」といった性別役割分担の考え方が根強く残り、男女の生き方が固定されてきました。
男女平等の観点から、このような考え方を見直し、男性も女性も、ともに個性と能力を十分に発揮できる社会を実現するため、国では多くの法整備を行い、女性の社会進出を進めてきました。これにより固定的な性別役割分担意識は徐々に解消されてきているものの、いまだに社会における男女の格差は残されています。
また、女性の人権を侵害することが多い、配偶者からのDV(ドメスティック・バイオレンス)や、デートDV、職場でのセクシュアルハラスメントやマタニティ・ハラスメント等の解消に努め、誰もが安心して生活できる社会を構築していかなければなりません。
あらゆる嫌がらせや暴力を許さない取組みや、被害者の支援を行う体制の整備が求められています。男女が良きパートナーとして、お互いに理解し合い、性別に関係なく、個性と能力を十分に発揮できる社会の実現に向けて、意識改革にどう取り組んでいくかが課題となっています。
子ども
急速な少子化や核家族化、また、共働き世帯の増加等により、子どもを取り巻く環境は、日々大きく変化しています。特に近年では「子どもの貧困」が深刻な社会問題として議論されるようになっています。厚生労働省の平成28(2016)年公表の国民生活基礎調査によれば、子どもの貧困率は13.9%で、7人に1人の子どもが「相対的貧困」の状態にあると報告されています。
家庭においては、保護者が子育ての負担や不安などから児童虐待を引き起こすという問題が発生しています。学校では、いじめや不登校、地域社会においては、地域のつながりの希薄化などにより、社会性の欠如が問題になっています。
こうした問題を解消するため、家庭や学校以外の「子どもの居場所」を作り、地域の人と人とのつながりの中で、孤立を防ぐ取組みも見られるようになりました(こども食堂等)。
今後は益々、学校、家庭、地域社会等が互いに連携を図り、それぞれの機能を十分発揮し、子どもの人権尊重と人権の擁護に向けた取組みを推進し、適切に対応していくことが大きな課題となっています。
高齢者
本町の人口は、総人口のおよそ3人に1人が65歳以上の高齢者であり、社会を支えていく重要な存在となっています。
急激な高齢化が進む中、高齢者夫婦のみ世帯、一人暮らしの高齢者や寝たきり・認知症などによる要介護状態の高齢者など、社会的な支援を必要とする高齢者の増加が予想されます。
SDGs実施指針においても、8つの優先分野の一つとして、健康・長寿の達成が掲げられており、自治体の役割の重要性が指摘されています。一方、高齢者については、身体的・心理的な虐待、経済的問題、詐欺や悪徳商法などによる消費者被害、財産管理や遺産相続に関するトラブルなど様々な人権被害が懸念されます。
このため、要介護高齢者に対する各種サービスの充実、寝たきりにならないための介護予防教室、就労やボランティアの機会の確保、相談窓口や権利擁護の充実など、高齢者の自立を地域社会で支えあう事業への取組みが必要となっています。
障がい者
我が国は、国連の「障害者の権利に関する条約」の締結から平成26年1月の条例批准まで、国内法の整備を行い、この間、平成23年に「障害者虐待の防止、障害者の擁護者に対する支援等に関する法律(障害者虐待防止法)」が制定され(平成24年10月施行)、平成25年には「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」が制定されました(平成28年4月施行)。
このように法や制度の整備が進み、障がいに対する理解は進んできていますが、依然として、障がいのある人に対する偏見やいじめ、虐待などの人権問題は後を絶ちません。
障がいの有無によって分け隔てられることなく、お互いが人格と個性を尊重しあい、認め合う共生・持続可能な社会を実現するためには、差別や偏見といった人の心の中にある障壁が取り払われ、障がいの特性や障がいのある人について社会全体で十分に理解されなければなりません。
学校や家庭、職場、地域などの様々な場において、偏見や差別を解消する継続的な取組みが必要です。
同和問題
同和問題は、日本社会の歴史的過程で形成された身分階層構造に基づく差別により、日本国民の一部の人々が、日本国憲法により保証された基本的人権を侵害されているという、深刻で重大な社会問題です。
この問題を解決するため、国は様々な対策事業や啓発活動を実施してきましたが、今もなお偏見や差別意識は根強く残り、特定の地域の出身であることや、そこに住んでいることを理由に結婚や就職等で差別を受けるなど理不尽な人権侵害が生じています。また、情報化の進展に伴い、インターネットを通じた部落差別も生じています。
平成28年に施行された「部落差別の解消の推進に関する法律」では、現在も部落差別が存在していると認識し、解消することが重要な課題であり、国や地方公共団体の責務を明らかにするとともに、相談体制の充実や強化を図り、部落差別解消を推進することとしています。
インターネットによる人権侵害
現在、インターネットは私たちの日常生活の中にも大きく入り込んでおり、子どもからお年寄りまでパソコンや携帯電話等の情報機器を通じて幅広く利用されています。
インターネットは利用者に大きな利便性をもたらす一方で、匿名掲示板やSNS等において他人への誹謗中傷、他人の個人情報を勝手に公開する、差別を助長する表現の使用など、重大な人権問題が多数発生する原因にもなっています。
子どもたちの間でも、携帯電話やパソコンから誹謗中傷の言葉や他の子どもの個人情報をインターネット上の掲示板やブログなどに書き込んだり、メールやSNSで送ったりしてけんかやいじめに発展するなど、子どもの人権に関する深刻な問題が起こっています。
インターネットは匿名性が高いことにより、「誰なのかわからないだろう」という心理が働き、他人の人権を無視した行動が起こりやすくなります。また、インターネットは、情報の拡散の速度も速いため、一度インターネット上に出た個人情報等は完全に消すことができません。
このインターネットの匿名性の高さ及び情報の拡散速度の速さにより、インターネットによる人権侵害は全国的な社会問題になっているにも関わらず、根本的な解決方法が見出せないのが現状となっています。
さらに、「相談先が分からない」といった、被害を受けた時に適切な対応を取るための知識や手段に対する情報提供が不十分といった課題もあります。
多様な性のあり方
性は、生物学的な性(体の性)、性自認(心の性)、性的指向(恋愛・性愛の対象)、性表現(服装や言葉遣いなど)の4つの要素からなっており、その組み合わせは人によって様々です。
男性が男性を、女性が女性を好きになることや体の性と心の性が一致しない性同一性障がい者(トランスジェンダー)などのLGBT、いわゆる性的少数者の人たちは、性の区分を前提にした社会生活上の制約を受けるなど様々な困難を強いられたり、周囲の心ない好奇の目にさらされたりして苦しんでいます。
性的少数者については、社会的に十分理解されていないため、自分の性的指向や性自認を明らかにし、自分らしく生活することができず、不登校や退学・退社、ひいては自殺に追い込まれることもあります。
このため、トランスジェンダーについて、平成16年に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が施行され、一定の条件を満たす場合に戸籍の性別の変更を家庭裁判所に求めることができるようになり、平成20年には、その要件も緩和されています。
しかし、同性間の結婚については、さまざまな見解や意見が分かれており、わが国ではいまだに認められていませんし、性的少数者への偏見や差別を助長する興味本位の扱いは、まだまだ多いのが現状です。
感染症患者等
HIV(ヒト免疫不全ウィルス)やハンセン病及び新型コロナウィルス等の感染症に対する正しい知識と理解は、十分とは言えない状況にあります。これらの感染症にかかった患者・元患者やその家族、そして医療従事者までも周囲の人々の誤った知識と偏見等により、日常生活、職場、医療現場等で差別やプライバシー侵害等を受ける問題が起きています。
HIVによって引き起こされるエイズは、性的接触に留意すれば、日常生活において感染する可能性はほとんどなく、ハンセン病はらい菌という細菌による感染症ですが、感染力が弱く、感染したとしても発病することはまれで、今では治療法が確立しています。また、最近では、新型コロナウィルスの感染症に対する不安が高まることで冷静な判断を失い、感染者・濃厚接触者及び医療・福祉従事者やそのご家族に対し、誤解や偏見に基づく差別問題が起こりました。
インターネットやSNSで誤った情報が流されたり、差別を助長するような心無い書き込みも見られます。誤った情報や差別を助長する言動に惑わされず、公的機関の正しい情報を入手し、冷静な判断及び行動をすることが大切です。
外国人
近年、外国籍を持つ町民の増加に伴い、外国人と接する機会が増え、言語、文化、習慣、価値観の違いにより相互理解ができないまま、地域の中でトラブルになったり、差別や偏見などに繋がったりするケースがあります。また、災害が多発する中で、伝えるべき情報が伝わらずに守るべき命が危険にさらされたり、お互いに異なる文化背景を持つことから、避難所等の普段とは違う環境の中で、思わぬ人権問題が生まれてしまったりすることも考えられます。
日本国憲法の基本的人権の規定には、外国人の人権を直接保障したものはありませんが、「日本国民のみをその対象としているものと解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべき」とされています。
また、わが国には、移民の受け入れに関する法令はありません。しかし、「誰一人取り残さない」SDGsの理念から、言葉や文化等を異にする人についても保障するものと考えることができます。
特定の民族や国籍の人々を排斥する差別的言動、いわゆるヘイトスピーチについては、人々に不安感や嫌悪感を与えるだけでなく、人としての尊厳を傷つけたり、差別意識を生じさせかねないことから、平成28年6月「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組みの推進に関する法律(ヘイトスピーチ解消法)」が施行されています。
犯罪被害者とその家族
犯罪被害者やその家族は、犯罪そのものやその後遺症によって精神的、経済的に苦しんでいるだけでなく、追い打ちをかけるように興味本位の噂や心ない中傷等により名誉が傷つけられたり、マスメディアによる過剰な取材や報道でプライバシーを侵害されるなど大きな人権問題となっています。
その対策として、犯罪被害者等のための施策を総合的かつ計画的に推進し、犯罪被害者等の権利や利益の保護を図るため、平成17年4月に「犯罪被害者等基本法」が成立しました。
同年12月には、「犯罪被害者等基本計画」が作られ、毎年11月25日から12月1日までの一週間を「犯罪被害者週間」として、犯罪被害者等が置かれている状況や犯罪被害者等の名誉又は生活への配慮の重要性について、理解を深めてもらうことを目的とした活動が展開されています。
刑を終えて出所した人
罪を犯した人やその家族等に対する社会の偏見や差別意識は根強く、就職に際して差別があったり、住居の確保ができなかったり、悪意のある噂が流されるなどの問題が起きています。罪を犯した人が、罪を償い、地域社会に復帰し円滑な社会生活を営むためには、本人の意思と努力とともに、学校・家庭・職場・地域社会など周囲の理解と協力が必要です。
特に、刑法犯検挙人員に占める再犯者の割合は増加傾向にあり、刑務所再入所者の再犯時の状況から、安定した仕事や住居が確保されていないことが原因の一つとして考えられており、社会復帰を目指す人たちにとって課題となっています。
平成28年12月に成立した「再犯の防止等の推進に関する法律」に基づき、平成29年12月に「再犯防止推進計画」が閣議決定されました。
アイヌの人々
アイヌの人々は、北海道や東北地方の北部を中心に先住していた民族で、固有の文化を発展させてきました。しかし、明治維新以降、北海道開拓を進める明治政府によって制定された「北海道旧土人保護法」によって、土地を奪われ、生計手段の漁業や狩猟のほか、独自の習慣風習やアイヌ語の使用を禁じられてきました。こうした政策が長く続けられてきたことにより、アイヌ民族としての誇りや自尊心が奪われることになりました。
平成9年に成立した通称「アイヌ文化振興法」によって、この北海道旧土人保護法は廃止されました。しかし、アイヌの人々が先住民族であることが法律の中に明記されるには、さらに平成31年の通称「アイヌ新法」の成立まで待たなければなりませんでした。この法律ではアイヌの人々が先住民族であることは明記されましたが、先住民族としての権利保障については、何も述べられていません。
アイヌの人々に対する差別や偏見はいまだに残っており、少数民族の歴史や文化、伝統を正しく理解し、それらを尊重する心を持つことが、差別や偏見の解消に繋がります。
ホームレス
様々な事情によって定まった住居を持たず、公園や路上等で生活するホームレスの問題が存在しています。日本では、1990年代のバブル崩壊に伴う倒産や失業によって、ホームレスが急増しました。政府の統計によれば、近年では「公園や路上等で生活するホームレス」の人数は確かに減少傾向にあります。
しかし、日雇い労働などで一時的な収入を得ながら、簡易宿泊所やネットカフェなどに長期にわたって寝泊まりする人たちは少なくなく、その実態は明らかになっていません。
北朝鮮当局による拉致問題
1970年代から80年代にかけて北朝鮮当局による日本人拉致が多発し、平成25年7月現在、政府は17名を拉致被害者として認定しています。また、政府が認定した拉致被害者以外にも、拉致の可能性が否定できない人たちがいます。
平成14年9月の第1回日朝首脳会談において、北朝鮮当局は日本人を拉致したことを認め、謝罪しました。その後、5名の拉致被害者が帰国しましたが、残りの拉致被害者については、いまだ問題の解決には至っていません。
北朝鮮当局による拉致は、日本の主権と国民の生命と安全にかかわる問題であり、早期に解決が望まれる国民的課題ですが、同時に拉致被害者やその家族にとっては重大な人権侵害そのものであり、日本が現在抱えている人権課題の一つであるといえます。
その一方で、拉致問題は北朝鮮当局以外の北朝鮮の人々をはじめとした朝鮮半島の人々や、日本で生活する朝鮮半島に繋がりのある人々に責任を帰する問題ではないことを踏まえ、これらの人々に対する差別、偏見等が生じないように十分に配慮する必要があります。
人身取引
人身取引は、「現代の奴隷制」とも言われ、重大な人権侵害であり、身近なところにも潜んでいる可能性があります。「日本に行けばよい仕事がある」という悪徳業者の言葉に騙されて来日した女性が風俗産業に従事させられる事案が後を絶ちません。インターネットを通じてモデル募集に応募した女性がアダルト動画への出演や売春行為を強要される事案も近年増加しています。
こうした商業的な性的搾取を目的とした不法就労をはじめ、暴力や脅迫などの手段を用いた、賃金の未払いを含む劣悪な労働環境の中での強制労働などが国内外で深刻な問題となっています。
大規模災害の被災者・避難者
東日本大震災など大規模災害時において、避難所におけるプライバシーの問題や、高齢者や障がいのある人等の支援を必要とする方たちへの配慮等が問題となりました。
また、近年頻発する台風や集中豪雨などによる自然災害時においても、人権に配慮した被災者支援や避難所運営の在り方が問われるようになっています。